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札幌高等裁判所 昭和25年(う)366号 判決

控訴人 被告人 小林信一

弁護人 庭山四郎

検察官 小松不二雄関与

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

原審訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人の控訴趣意は別紙のとおりである。

第一点

原審第一回公判調書には検察官事務取扱検察事務官が弁護人所論のとおりの公判廷における口頭の訴因の追加を為し原審裁判官が之を許可した旨の記載があるが、後記破棄自判の項に判示した如く被告人の本件犯行の日時は昭和二十二年十二月三十一日であるから右調書中昭和二十三年の記載は昭和二十二年の誤記であると認めるのが相当である。しかして右の追加は被告人の単独犯行を共同正犯と訴因の変更をなしたものと解すべきであつて、かゝる程度の訴因変更は被告人の防禦権に重大なる影響があるとは思われないから之を許可した原審の措置は正当である。尤も口頭による訴因変更を許可した場合裁判所は之についての弁護人又は被告人の意見弁解を求めることが妥当ではあるが、弁護人及び被告人は既に法廷において其の内容を聴取しているのであつて之に対する防禦権の行使を何時にても為し得るわけであるから、改めて之が通知をなすを要するものではない。従つて原審が右の解示をしなかつたからといつて其の公判手続に法令違反があるとは考へられない。論旨は理由がない。

第二点

原判決は本件被告人の犯行日時を昭和二十三年十二月三十一日と判示しているが、其の挙示の証拠によれば右判示事実を認めることができないのであつて、却て被告人の本件犯行の日時は同二十二年十二月三十一日であつた事実を認め得るのであつて原判決は此の点において理由のくいちがいがあり論旨は理由があり破棄を免かれないから刑事訴訟法第三百九十七条により原判決を破棄し同法第四百条但書に則り更に判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は小林敏郎、高橋某と共謀して昭和二十二年十二月三十一日午後十二時頃札幌市北六条西一丁目所在の拓殖倉庫において日本通運株式会社札幌支店経理部用品課長三山常吉管理に係る防寒襦袢百枚外衣料品、ゴム長靴、合羽、自転車等合計六百二十余点を窃取したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

法律によると被告人の判示所為は刑法第二百三十五条第六十条に該当するから所定刑期範囲内で被告人を懲役一年に処し訴訟費用に付刑事訴訟法第百八十一条第一項により原審訴訟費用の全部を被告人の負担とし主文のとおり判決する。

(裁判長判事 猪股薫 判事 鈴木進 判事 臼井直道)

弁護人の控訴趣意

第一点原判決は違法な審理に基いて裁判されたのであるから破棄さるべきものである。原審第一回公判調書には、検察官事務取扱検察事務官は、公訴事実中、被告人は昭和二十二年十二月三十一日頃とあるを被告人は小林敏郎、高橋某と共謀し昭和二十三年十二月三十一日頃と訴因の追加をする旨右訴因追加の請求をした。裁判官は右訴因の追加を許可したとある。

然し乍ら右は訴因の変更に関する法律の手続に違背してゐる。即ち昭和二十二年十二月三十一日とあるのを昭和二十三年十二月三十一日と訂正するのは訴因の変更であつて追加ではなく被告人単独犯行の起訴を小林敏郎外二名と共謀と訂正するのは之亦変更であつて追加ではないが、右請求当時原審裁判官は何故被告人に訴因変更の内容を告げなかつたか刑訴法三一二条三項は変更部分の被告人通知を義務づけてゐる。之は被告人の在廷する公判廷に於て口頭による変更のあつた場合も同様の理であつてその間何等径庭を認むべき筋合ではない。之は訴因変更に関する法律規則が極めて厳格に規定され被告人等の防禦権を極度に発揮せしめるよう人権尊重の法の精神がそこに盛られてゐることからも輙く看取し得るとこである。

右の様な場合原審裁判官は訴因変更の事実を解示するなり更に変更について被告人弁護人の意見を求めるべきでさしあたつた事と考えられるのに事茲に出でず右変更の口頭の通知さえも忘れたのは被告人の防禦権に関する公判手続に違背あるもので当然破棄さるべきものである。

第二点

原判決は犯行の日時についての審理が極めて不尽であつて破棄さるべきものである。その援用に係る証拠によるも被告人が昭和二十三年十二月三十一日午後十二時頃にその摘示物品を窃取したことを認めることは出来ない。原審公廷の被告人の供述にては昭和二十二年十二月三十一日の夜の神社参拜に行つた時とあり明かに昭和二十三年一月元旦早朝と判断され、被告人に対する検察官の調書、被害者側及び贓品買受側の全証拠が明に右日時を指示しているのに独り検察官の訂正起訴状及び判決書が一年も違つている。判決の権威のため右審理不尽は匡正さるべきものである。

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